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「ため息なんかついちゃって、やっぱりひとりの夜は寂しいのね、ヒナちゃん。さあさあ、あかねちゃん特製ナポリタンで元気だしなさいよ」
ドンと置かれた湯気の立つ皿に、高見沢が現れて以来忘れていた食欲がわいてくる。あかねのサービスなのかやけに大盛りなそれと格闘しているうちに、猫田の親父さんの船は港に帰還したようで、寝ぼけた声がボックス席から聞こえてきた。
「……いけねぇ、うとうとしちまった。アヤカ、おい、夏なつココナッツっての入れてくれ。ママ、マイク」
「社長、そろそろお開きにしたほうがいいんじゃないかしら。ほら、よろけてるじゃないの」
マイクを取りにカウンターへとヨロヨロやって来た親父さんへあかねが心配そうに声をかけても、「うるせー、俺はアヤカとココナッツしないと眠れねぇってんだ」なんて、たった今まで眠りこけてたくせに訳がわからない。
日向は笑いをこらえながら振り向いて挨拶をした。一応ご迷惑をかけた身だし。
すると「こんばんは」の声にこちらを向いた親父さんの半分夢の中のようだった顔が、電気に打たれたようにビクリと強ばった。
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