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10―10

「今さら俺になんの用なの?」 「なんの用って、彼氏に向かってその言い方ひどくない?」 「もと、彼氏、でしょ。俺は何度も別れたいって言ったし、俺から金を引き出そうとしてももうなんにも残ってないから」 「えー、冷たいなぁ日向くんは。僕が君を好きで追いかけてきたって思わないの? 日向が急にいなくなって寂しくて追いかけてきたって思ってくれないわけ?」 「調子のいいこと言うなよ。ほかに女の人がいたの知ってるし、もう俺は騙されない」  あけぼの団地を抜けた先はのどかな田んぼの風景で、こんな時間だと明かりひとつ見えない暗闇に弱い雨の音だけが聞こえている。細く開けた車の窓から、高見沢が吸うタバコの煙が闇に溶けるように流れていった。 「あのおにいさんと付き合ってるの?」  ハンドルにもたれた姿勢でこちらを向いた高見沢の整った顔は、穏やかに笑みを作る口元以外は冷たいナイフのように鋭い。

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