128 / 191
10―11
「あ、あの人は俺の恩人だよ。金も行くところもない俺を助けてくれた人だ」
「ふうん、金と住むところを与える代わりにセックスしろって? ひどい男だね」
「ちげーよっ。イチさんはそんな人じゃないっ」
逸也が与えてくれたのは、物質的なものだけじゃない。大きな愛情で日向を包んで、心の居場所を作ってくれた。優しく壊れ物のように日向を抱く逸也を思いだし、泣きたくなるような切なさが込み上げてくる。
「とにかく、俺はあんたと話すこともないし二度とかかわり合いたくない。あけぼの市担当の営業マンなんてどうせ嘘だろ? この町に近寄るのはやめてくれよ」
車のロックをはずし、外へ出ようと体を捻った日向の腕を高見沢が強くつかんだ。手首に巻かれた派手な腕時計は、以前していたものと違っている。新しい女を引っかけて買わせたんだろう。そうやって誰かを食いものにしないと生きられない高見沢へ、幼い頃抱いた憧れや恋慕の気持ちはもう一ミリも残っていなかった。
ともだちにシェアしよう!