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10―12
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「……ただいま」
高見沢の車から転がるように降りたあとは、ただひたすら走って走って商店街へと帰ってきた。そぼ降る雨に濡れた体は寒さにきしんでいたし、走り続けたせいで足も頭も心臓も痛かったけど、ゴーストタウンのようなこの寂れた通りが見えた瞬間、「ああ帰ってきた」と安堵で腰が抜けそうだった。
明かりの消えたトキタの看板に涙が出そうになり、裏口の鍵を開ける手が震えてしまう。玄関先に揃えられた逸也のドクターマーチンを見て、こらえきれない涙がひとつふたつと頬にこぼれた。
案の定、逸也は飲みすぎたらしく、ソファの定位置でデロデロに煮崩れていた。いつもの光景への愛しさでグスグスと鼻をすすったら、男前が目を覚ました。
「お、日向ぁ、どこ行ってたんだよ? うわ、なんでずぶ濡れ? こんな深夜にアイスバケツチャレンジ? 今ごろっ?」
「するかっ。何年前の流行だよ」
言いながら逸也の胸に倒れこんだら、「うわ、つめてー」なんて叫びながらも強く抱き締めてくれる。あったかい。安心する場所。大切な場所。
また溢れそうな涙を見られたくないから、わーわー言ってる唇に噛りつくようキスをした。
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