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翌朝。トキタ惣菜店のシャッターの中では、いつものように逸也と日向が仕込みに追われていた。この頃、日替り惣菜の数点は日向の担当で、フライヤーの油の中では衣を纏った鶏むね肉がジュワジュワ美味しそうな音を立てている。その横で手早くカリフラワーとパプリカの彩り鮮やかな餡を作る日向の後ろ姿を、包丁を持つ手を止めた逸也がそっと見つめていた。
夕べの日向はどこかおかしかった。自分より早く帰ったはずなのに、ずぶ濡れで深夜に帰宅した。それでなんだかぎゅうぎゅう抱きついてきて。酔ってはいたが、記憶はなくしていない。
あいつと会っていたんだろうか。爽やかな営業マンの顔を思い出せば、逸也の口元はムッとへの字になってしまう。商店街の会合で、親父さんたちがしていた日向の噂話も気になっていた。
「イチさん、サボるな」
「へい」
どちらが店主かわからない態度に首をすくめ、とにかく今は作業に集中しようと包丁を握りなおした時だった。通りの向こうからパトカーのサイレンが近づいてきて、トキタ惣菜店の近くでその音がやんだ。
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