133 / 191

11―4

 トキタ惣菜店がシャッターを開ける頃には警察の車輌も野次馬もきれいにいなくなっていた。閑散としたいつものあけぼの商店街の光景に、ほっとしてしまうのもなんだかなぁと思う。  それでも、昨夜遅くまで降っていた雨もやんだし今日はそれなりに忙しくなるだろう、と逸也は頭のタオルを巻きなおした。日向の日替り惣菜、『鶏フリッターの彩り餡かけ』と『カブの肉巻きフライ』に『芽キャベツのガーリックマスタード炒め』はどれも食欲をそそる出来映えだ。  カブをフライにするなんて逸也の発想にはないメニューだが、試食してみれば薄切り肉に包まれたカブのトロリとした食感がたまらなく旨い。  日向が携わるようになってからトキタのメニューが若々しくなった、と評判だ。年配者だからって煮物ばかり食べてるわけじゃない。自分もまだ十分若者だと思うが、父親の残したメニューにこだわりすぎていた感があったことに気づかされた。  ほっそりとした腰をエプロンで包みキビキビと働く日向を見ていると、最高の嫁をもらったような嬉しさでニヤニヤしてしまう。視線を感じた嫁が振り返ったので、「イチさん、笑顔が不気味すぎ」とか叱られるんじゃないかと首をすくめたが、日向は無言でためいきをついただけだから、なんだか肩透かしをくったような気分の逸也だった。

ともだちにシェアしよう!