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 キリリとタオルを巻きなおし、気合いをいれた予想に反して、今日のトキタの売り上げは芳しくなく。お昼をすぎると鳴りっぱなしになることもある弁当の注文電話も、しとやかに沈黙したままだ。  きれいにパックされた日向の彩り鮮やかな惣菜も、客のいない店内でお行儀よく並んだままだった。「まあ、こんな日もあるさ」と、いつもの逸也なら笑って済ませてしまうけれど、今日はそんな気持ちにはなれなかった。  ゆうべの会合で聞かされた日向の噂話。まさかそれが影響しているのだろうか。  言い出しっぺは八百屋の親父だった。 「イッちゃんさぁ、つかぬことを聞くけどもな。最近お宅で働きだした若い子、あの子は施設の出身なのかい?」  別に隠すようなことでもないから「そうだ」と答えたが、八百屋は太い腕を太鼓腹の上で「むぅ」と組んで思案顔をしている。 「なんすか?」 「いやなぁ……、こんなことはあまり言いたかないんだけどもよ。その……、売上が合わねぇとかそんなことは起きてねぇか?」

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