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「チビたちが寝ている間に牛乳買ってこようと思ってたの。急がなくちゃ」とコンビニへ入っていく幸恵と別れて、逸也は釈然としない気持ちを振り払うように大きくアクセルをふかした。チビッ子たちと昼寝をして遅くなったというのはウソなのか。なぜそんなウソを? 日向を見送ったときに見かけた白いバン。あれはやはり高見沢で、日向と会っていたのだとしたら?
そういえば夕べの様子もおかしかった。逸也より早くあかねの店を出たはずなのに深夜に帰ってきた日向。しかもずぶ濡れで。
「くそっ」
心にかかっていた薄雲が、ビリビリと電気をはらんだ暗雲に変わっていく。すべてが憶測に過ぎない状況で不用意に放電することは危険だと、逸也はきつく唇を噛み締める。店先に客の姿があるトキタ惣菜店が見えてきて、逸也は気持ちのシフトチェンジのために大きく深呼吸した。
バイクを停めて無理やり作った笑顔で客に挨拶をしたところに、今朝も聞いた不穏なサイレンの音が近づいてくる。自分の心の暗雲が、あけぼの商店街全体に広がっていくようで背中が寒くなる逸也だった。
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