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「いいか、物騒だから今夜はどこにも出掛けるなよ。あかねの店にもだ」  定刻より早く店のシャッターを下ろしながら、逸也にくどいほど念をおされて日向はコクコクとうなずいた。それを見届けた店主は、商店街の臨時会合へと出掛けていった。  八百屋の二階から現金が盗まれ、これで連続空巣事件となった。あけぼの商店街始まって以来の出来事に、今夜はトキタ惣菜店だけでなく、ほぼすべての店が早じまいしたようだ。  今朝からのあれこれに疲れた日向は食欲もわかず、風呂だけ入って居間のソファでぼんやりと膝を抱えた。  配達から帰ったあとの逸也の表情が、会合へ出掛けるまでずっと険しいままで、それが気になっていた。とんでもない事件が身近で起きている。だからだと思ってみても、逸也の態度はいつもと違っていた。くっつきたがりの甘えたで、どちらかが出掛ける際にはベタベタと撫で回すようなハグをして日向を困らせるくせに、今夜の逸也はハグどころか日向と目を合わせようともしなかった。

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