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「俺、なにかしちゃったのかな……」
こぼれた声が、自分でも心配になるくらい弱々しくて心細くなる。逸也に嫌われたら自分はどうなってしまうのか。あんなに人情家の逸也だから、恋心が醒めたとしても「だから出ていけ」なんて言えないだろう。ただの店主と従業員の関係で、ひとつ屋根の下に暮らさなくてはならなくなったら……。そんなの耐えられない。かといって逸也のそばを離れるのはもっと耐えられない。
「やっぱ男同士は無理、って思っちゃったのかな」
ふいに高見沢の顔が浮かんだ。チビッ子たちの家から帰る途中、まるで日向が出てくるのを知っていたかのように現れた高見沢は、夕べのように自分の素行を棚上げして日向に戻ってくるよう繰り返す。普通の感覚を持った人間ではないと思ってはいたが、あれほど日向に執着する理由がわからないから不気味だ。
「ああいうのがストーカーっていうのか」
ざわざわと二の腕に鳥肌がたった。急にひとりでいることが不安になる。そのとき、階下から聞こえたゴトリという物音に日向は飛び上がった。
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