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 寝起きの目に室内灯が眩しくて、逆光に立つ逸也の顔がよく見えない。けれどもいつもなら、そっけない言葉にだってほんの少しシロップを混ぜたような声色が、昼間感じた以上に平坦で表情がないから、日向の心はひゅるっとすくんでしまう。 「あ、あの、遅くまでお疲れ様でした。いま、お茶煎れますから」 「いーよ。俺、風呂はいるから。お前は先に寝てろ」  ほらやっぱり。付け合わせのパセリを間違えて口に入れてしまったときのような気持ち。苦い。間違い、なら吐き出せばいいんだけれど、間違いじゃなかったら? 「先に寝てろ、って。俺はどこで寝ればいいのかな……」  そういう関係になってからずっと、ソファでイチャイチャした日はそのままなだれ込み、そういうことをしない日でも眠くなれば手を引かれて沈むのは逸也のベッドだったから。  今日の逸也の様子だと、日向にそういうことを仕掛けてくる気配なんてないし、隣に寝転がっても手すら握ってもらえなかったらヘコむ。というより、ベッドで当然のように逸也を待っている日向にため息でもつかれたら……。  迷った日向は結局、自分の部屋に布団を敷いた。しばらく使っていなかった昭和柄はひんやりと冷たくて、朝まで日向は眠れずに過ごした。

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