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 北風が冷たい日なのに、焦って飛び出してきてしまったから忘れた手袋が恋しい。かじかんだ手でカゴをつかみ、ポイント三倍デーのせいで混雑した店内を縫うように進んでいく。目当てのものと一緒にドリンク剤を数本カゴに入れた。 「チョコレート、も買っていこう」  自他共に認める鉄の胃袋の持ち主だが、甘いものだけは節制している逸也に「どうして?」と聞いたことがある。 「このビジュアルでな、酒が弱くて甘いもの大好きだなんて、俺がどんだけ恥ずかしいと思っているか、察しろ」  眉間にシワを寄せながら、そんな訳のわからない理由を口にする逸也を、たまらなく可愛いと思った。あかねに連れられていったパンケーキ屋で、「しょうがねぇなぁ」と言いながら、SNS映えするような乙女フルーツてんこ盛りを嬉しそうに食べる姿を思い出してニヤニヤしてしまう。  イチさん。大好きなひと。こんな子供だましみたいな方法でギクシャクする空気が入れ替わるとも思えなかったけれど、それでも日向はチョコレートをカゴへとそっと落とした。

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