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「えっ? トキタさんとこの、あの子?」  レジへ向かおうと、菓子のコーナーから角を曲がりかけた耳に飛び込んできた噂話が、日向の足を止めさせた。興味津々な声の色に、頭のなかで黄色信号が点滅する。 「そうよ。あの日向って子。施設出身で、いろいろと問題起こしてたって話」  得意気に、憎々しそうに、ペラペラとしゃべる声は八百屋のおかみさんだった。 「なんでも、同じ部屋の子の財布からお金を盗んだり、前の職場でもお金の不始末で逃げてきたって話なのよ。うちに空き巣が入った日、あたし見たのよね。あの子が周りを気にするように走ってトキタに帰るとこ」 「それは怪しいわぁ」 「でしょう? きっと犯人はあの子よ。団地の奥さんたちもみんな言ってるもの。泥棒のいる店で買い物はしたくないって」 「確かにねぇ」 「ああもう、証拠が無いのが悔しいわ。イッちゃんにはクビにしろって言ったんだけどねぇ。それで、もう自衛するしかないってお父さんとも相談して、ほらあのホームセキュリティ? あれをね……」  足が震えて目の前が白くなっていく。その先の言葉はもう耳に入ってこなかった。

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