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 どうやって会計したのかわからないほど茫然自失の状態で、気づけば公園のタコ山の中でヤオイダの袋を抱えて震えていた。  泥棒。施設出身。不始末。クビ。  ぐるぐると繰り返す負のキーワードに、逸也のぎこちない態度が合致した。順調だった弁当の宅配や店頭に買いに来る客数が右下がりの原因。日向に笑いかけてくれない原因。触れてもらえない原因。  覚えのない中傷への憤りよりも、逸也に疑われていたことがショックだった。どこからどんなふうに噂を聞いたのかわからないが、逸也の態度を見れば、日向の扱いに困っていたことが想像つく。  団地にまで広がった噂を収拾するのは不可能に思えた。疑いを持ちながら日向と暮らすことは、人情家の逸也にとってはキツイ毎日だろう。たとえ逸也に冤罪だと説明して誤解を解いたところで、傾いた商売を立て直せるわけでもない。 「出ていこう」  このままこのあけぼの商店街に自分が居続けたら、逸也までも誹謗中傷されてしまう。それだけは絶対に避けなければ。

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