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 真夜中のあけぼの商店街は、海の底に沈んだ遺跡みたいに暗く静かに眠っている。泣きすぎたせいで、ぼんやりとピントの合わない静止画のように見える景色のなかを、猫が一匹横切っていく。 「トラ?」  路地から出てきたトラは日向へ振り返ると「ぶみゃん」とひとつ鳴いて、暗闇へと消えていった。もう少し夜の散歩を楽しんで、それから薬局のおばさんに窓ガラスを開けてもらうのだろう。帰る場所があるトラがうらやましくてまた涙が出てきそうだった。 「はぁ……、俺はどこへ行けばいいのかな」  涙でふやけた頭のなかに、行き先なんて浮かんでこない。 「だからー、僕のところに戻ればいいんじゃない?」 「え?」  突然つかまれた腕に派手な時計が見えて、上げた視線の先で一番会いたくない人物が笑っていた。 「慧ちゃん? なんで?」 「やっとあのにいちゃんから解放されたんでしょ? 迎えに来たよ」 「な、に言ってるんだよ。っていうか、こんな夜中にどうしてここにいるわけ?」

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