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「ほら、ぐずぐずしてるから邪魔者が来ちゃったじゃない。ホントあいつ、ウザいわ」
これ見よがしに日向を引き寄せ、耳元に口を寄せる高見沢に鳥肌がたった。嫌だ。こんなやつに触られたくない。触られているところを見せたくない。
「離せよっ。ウザいのはあんただろっ。俺が施設出身で手癖が悪くて逃げてきただなんて噂、あんたが流したんだろ。あんたのせいで俺は何もかも失ったんだ。仕事も住む場所も大切な人もっ」
「なに言ってるの? 僕たちにはもともとそんなもの与えられなかったじゃない。無いものをどうやって失うって言うの?」
「そうだよ。俺らは幸せなんて与えてもらえなかった。だから作りたいんだよ。あったかい場所とか大切なひととか。俺は……、俺は幸せになりたい。だからっ……」
きつく掴んでくる手を振り払おうとひねった首筋に、冷たい感触がした。薄暗がりのなかでもその鋭さを誇示するように光るのは、いつの間にか高見沢の手に握られたジャックナイフだった。
「きゃ!」
逸也のあとに続いて走ってきたあかねとアヤカ、巧の姿が一時停止したように凍りついた。
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