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13―13

 日向は高見沢の手を振り払うと思い切り体をひねった。特大バックパックの重さでよろけた瞬間、「離れろっ」と声がして、目の前で逸也の右足が空を切るように舞った。蹴り出された足は高見沢の手元にヒットして、ナイフが吹き飛ばされる。それを確認する間もない素早さで、着地した右足を軸に今度は左の後ろ蹴りがきれいに側頭部に入り、声もなく高見沢はその場に崩れ落ちた。  一撃必殺。失神した高見沢を見下ろした逸也は地を這うような低い声でつぶやいた。 「俺の大事な日向にふざけたことしやがって。地獄に堕ちろ」  ほんの一瞬の出来事だったのにまるで映画のワンシーンのようなハイキックは、その場で凍りついていた一同を別の意味で動けなくするほど鮮やかでクールだった。 「日向、大丈夫か?」  しりもちをついたまま呆けたような日向に大きな手のひらを差しのべて、逸也は照れたように鼻の横をチョイチョイっと掻いた。とたんに恐怖から解放された安堵と、逸也にまた会えた嬉しさで涙が込み上げてくる。 「イチさん……」  つながれた手をぐっと強く引き寄せられ厚い胸にぎゅっと抱かれたら、日向は声をあげて泣き出してしまった。 「イチさん、イチさん、イチさ……」 「怖かったよなぁ。無事でよかった」

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