166 / 191
14―1
「ねぇえ、まだかな? まだかしらぁ?」
「わかんないけど、とにかく落ち着きましょうよ」
「そんなこと言ったって落ち着けないわよぉ。幸恵ちゃんはもちろんだけど、ヒナちゃんが心配なのよっ。ああもう、まだかしらっ」
「あかねー、お前までなんか生んだら困るからさ、とにかく座っとけや」
まるで動物園のゴリラのように病院の廊下を行ったり来たりしながら、分娩室からときどき漏れ聞こえる幸恵のいきむ声に合わせて歯を食いしばる様子に、あかねまで出産してしまいそうで。この筋肉おネエの産み落とすものがなんなのか想像するとちょっと震えてしまう。
「生めるもんならアタシも生みたいわよっ。ていうか、男の子女の子、どっちかしらねぇ」
警察が到着して高見沢を引き渡している最中に幸恵からいよいよ生まれそうだという連絡が入り、事情聴取もそこそこに病院へと駆けつけた一同だったのだが。
「ヒナちゃん、大丈夫かしら……」
「うん」
もともと巧の立ち会いが決まっていた出産だったが、病院に駆けつけた日向を見た幸恵が「ヒナちゃんも」と希望した。尻込みする日向に「ヒナちゃんが立ち会わないなら生まない」と言い張った。
ともだちにシェアしよう!