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 こんな早朝から出勤なのか、作業服を来た若い男性が団地の階段を下りてくる。反対側の棟からは、犬を連れた老人が田んぼの方へと歩いていった。  新しい一日が始まる澄んだ空気のなかで、胸焼けするような甘い気配に包まっている自分たちに照れたふたりは体を離し、そっと手を繋いで商店街へと歩き始めた。 「あーらー、イッちゃん。あらら、ヒナちゃんも。おはようー」  犬の散歩に出てきた勝田さんが、早朝とは思えぬ元気のよさで駆け寄ってきた。 「ねえねえねえねえ、ゆうべ商店街にパトカー来てたでしょ? また空き巣? 見た?」 「ああ、なんだか犯人、捕まったみたいっすよ?」 「うっそおー? あらやだ、誰だったの誰だったのっ?」 「さあ」 「あらー、とにかく捕まったのね? そう! それは大変だわっ!」  とぼける逸也と日向に勝田さんは目をクルクルと動かして、愛犬を無理やり引っ張ると自分の住む棟へと駆け戻っていった。

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