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第9話 欲ない

僕は今の白羽の事を話した。 意識が戻ったこと。 学校のみんなは思い出したのに僕の記憶だけが戻らないこと。 そしたら遠藤くんは、 「え?黒田さんだけ思い出してないんですか?」 「そうなんだ。正直辛いししんどいけど、でも僕は白羽がまた普通に生きて普通に生活に戻れるだけで嬉しいんだ。だから、こうやって面会にいってまた1から友達としての関係を気づけるだけでいい。」 「………くない。」 「え?」 「全然良くねぇよ‼ 毎日毎日部活終わりに病院いって起きる見込みもない人の部屋に世話しにいって、あんたが毎日いってる間に東堂さんの両親は新たな子作りだろ? ふざけんな‼ だいたい、その小学生の頃の奴らは初めに担任と一緒に面会に来たっきりどうせきてねんだろ? あんたの事だ。どうせ目が覚めたことも伝えてねぇはずだ。 仮に伝えてても来るのは1度だけ。 そんな薄情なやつらのことは思い出してあんたの事は分からねぇって…。 そんなのあんまりですよ…。」 「お、おお、落ち着いて遠藤くん。確かに白羽の両親は新しい白羽の弟が出来たけど、 それは白羽が事故に合う前にはわかってたし、子供の世話は大変だしさ。 それに小学生の頃の友達は何人か面会に来てるよ。女の子ばかりだけど…。」 「先輩は本当にいいんですか。自分だけ思い出して貰えなくて。」 「いんだよ。別に無理に思い出して欲しくないんだ。僕の事を思い出せば、事故のことも思い出してしまう。 それに、僕は彼氏だと思って割りきれても白羽がそうとは限らないからね。」 そう。 僕はいいんだ。 白羽さえ幸せに生きられるなら。 僕は君の彼氏だなんて思い出したらきっと白羽は混乱する。 そしたらきっと気持ち悪がって嫌われる。もうあうことも出来なくなる。 今の白羽は迷惑に思っても決してくるなとは言わない。その優しさだけでいい。 嫌われなければそれでいい。 僕はもうなにも望まない。 僕は欲張ったらダメなんだよ。 「俺は赦せねぇ。」 そう言った遠藤くんの言葉は僕の耳には入ってなかった。

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