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出会いは少女マンガのようなものではなく7

ドアに鼓が手をかけると、ストーカーは「どこ行くの?」と声をかけた。 いま、好きだと言ったはずだが、なぜか本人にな〜んだ、で済まされていることが気に食わないようだ。 「どこって...次の授業の準備しなきゃ」 「ちょっっと...待った。俺、いま君に一世一代の告白したんだけど」 「.........好きって言いましたね?」 「言ったね」 「…??」 首を傾げられると、ストーカーは自分の気持ちが鼓に正確に伝わっていないことにやっと気づく。 「俺、君のこと...鼓くんのこと、恋愛的な意味で好きなんだけど」 (…れんあいてきないみで?) 鼓の経験上、恋愛的に好きと言われ事などない。憧れなどで言われたことはあったが、嫌いだ、嫌味ったらしいというのがほとんどだ。 「…俺のこと、スキなの?」 「うん……好きです」 先程と同じ会話を繰り返すふたり。それでもなお、鼓は「恋愛的な意味で好き」が理解出来ず、分からない…と呟いた。 「ごめんなさい、俺には難しくて理解出来ないです…。また後日改めてお返事させてください」 鼓が礼儀正しく腰を45度に曲げると、ストーカーは毒気を抜かれて 「…あ、はい」 と口を開けて鼓が出ていくのを見守った。 「それでは、失礼します」 ガラガラと戸が開き、またガラガラと閉まる。ポカンとするストーカー。その扉の向こうには、ちゃんとした返事考えなきゃ…それに、すとーかーについても学ばないと、と呑気なことを考える鼓がいた。 ストーカーにここまでの敬意を払うのは、やはり鼓だけなのかもしれない。 だが、ストーカーがみすみす鼓を逃すことなどなかった。

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