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出会いから数時間後3
(どうしよう、どうしたら回避できるかな...)
「あのさ、えっと...」
鼓が言葉に詰まる理由、それは、苦労人くんの名前を知らないからだ。「クラスメイトA」と言っていたくらいだ、名前を知っているはずがない。
名前が分からなくてもいいやと鼓は開き直る。
「運ぶ部屋、間違ってない?俺、先輩とそういう話したことないんだけど」
「え、ほんと?!まじか...ここまで全力で運んできたのに!」
(ごめん荷物持って帰って)
鼓は笑顔で鬼畜なことを思う。たとえ重かろうと自分の不利益なことは回避しようとするのが鼓である。
「でも確かにそうだよね。氷川先輩みたいな人がかぐら荘に来るはずないか」
「うん。大変だったでしょ?運ぶの手伝おうか?」
(これでどっか違うところに置いていこう。そうしよう)
鼓が意地悪く笑っていると。
「待って待って。運ぶ部屋あってるよ」
現れた人物に鼓はあんぐり口を開けた。
「氷川先輩!」
リビングに入ってきた遼介に駆け寄る苦労人くん。
「ありがとうね運んでくれて。また今度お礼するよ」
(...だれ?)
鼓が固まるのも無理はない。それだけ、遼介の変わりようがすごいのだ。
ワカメヘアーはどこへやら、整えられた髪は堅苦しいとまではいかないがきっちりと揃えられ、前髪で見えなかった黒縁メガネは、今やエロさすら感じるほど決まっていた。
「じゃあ、つーくん。リビングでお話しようか」
鼓をつーくんなどと呼ぶのは一人しかいない。だが鼓はこれがさっきのストーカーなのだと納得出来ていない。
「先輩、じゃあ僕はこれで」
鼓が手を伸ばすも苦労人くんは颯爽と立ち去ってしまう。呆然と手を伸ばしたまま固まる鼓に、遼介が腕を取る。
「つーくんが追いかけていいのは俺だけだよ?こういうことしちゃだめ」
腕を引っ込めさせられ鼓は首を傾げた。
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