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土曜日と日曜日と月曜日のお話7
ページのめくられる音。数十冊に及ぶ分厚いアルバムを延々と眺め続ける。
かなり集中してしまっているのか、遼介が声をかけようと見向きもしない。
写真は駅のホームだったり、電車そのものだったり、山々の風景だったり、高層ビルだったり――...。
写真の下には必ず日付が書いてあり、それが遼介の性格の几帳面さを際立たせていた。
「どれが好き?」
「.........ぜんぶ」
時々遼介が話しかけると、敬語がなくなった状態で返ってくる。
「特にとかないの?」
「.........ぜんぶ」
「え〜...」
最後に持ってこられたアルバムが終わり、やっとの事で鼓は顔を上げた。ご感想は、と尋ねられ凄すぎて集中しちゃいましたと素直な気持ちを言う。
「ぜんぶ凄かったので決められませんが、海が綺麗でした。あれ、水中カメラかなにか使ってるんですか?」
「うん、そうそう」
「魚がいっぱいくっついてるのが可愛かったです」
「カメラに餌つけてみたんだ」
「そんな発想なかったです」
鼓の視線に、ふいとそっぽを向いた。照れているのだろうか。
話を逸らすために、遼介が語り出す。
「こっからは余談なんだけど............俺の失敗談その1。水中カメラの存在知らなくて、一眼レフ水に突っ込んでダメにした」
鼓がくすくすと笑う。
「なにしてるんですか」
「その2。カメラ引き上げようとして自分も水にハマった」
今度は吹き出す。
「その3。泳げないのに川に入って下流...つまり海まで流された」
「う、海...っ」
腹を抱え、目に涙を浮かべる。その後も続々と出てくる失敗談に鼓は死ぬ、お腹痛すぎて死ぬと笑い転げた。
ようやく笑いが止まるも、鼓の呼吸は未だにひぃひぃと鳴り、どこかおかしい。遼介は愛しいものを見るかのようにその様子をじっと見つめていた。
「つーくんは怒ってる顔より、笑ってる顔の方がやっぱり可愛いね」
いきなりの口説き文句に鼓が照れ顔になる。
「俺が見てた限りつーくんってあんまり笑わないから」
(見てた限りって、いつから、どこからの話だろう)
そうですか?、と鼓は何の気なしに再度アルバムを手にした。
そして、にこっとする。それはもう、とびっきりの笑顔で。思わず遼介が昨日のうちに取り付けたカメラの手動シャッターを押しそうになったほどだ。
「ところで先輩」
「なに??」
「いい加減に例のモノ、出してください」
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