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土曜日と日曜日と月曜日のお話13
話を聞いていなかった鼓は、視線に戸惑いつつも遼介に部屋の鍵交換って出来ましたっけ?と尋ねる。
「学校の私物だし、無理だと思うよ」
そう遼介は和やかに答えたが、部屋に鍵を付けるという行為自体が通常不可能なはずである。遼介の言葉を借りるなら、「学校の私物だし」。
「そうですか...じゃあ俺の部屋にだけ鍵つけます」
しかし鼓は遼介こ返答を聞いて普通に納得してしまった。この抜け加減に遼介は内心ガッツポーズである。
「つーくんのベッドに潜りこみたいのに」
「だめ。俺の貞操の危機じゃないですか」
「優しくする!」
「まだ先輩の告白に返事してません!」
付き合いたてのカップルのような会話だ。2人は八九座がいることを忘れやいやい言い合う。
すると、八九座がちら、と遼介を見た。対する遼介はじろ、と睨む。まだ居たのかと言う意味だろう。
「なに?」
「まだ付き合われてないのですか。てっきりもう...」
「付き合ってないよ。猶予をあげたからね」
「猶予、ですか」
「お試し期間、かな」
手を出してもないよ、と遼介は肩をくすませた。
八九座は疑わしげな顔をし、サングラスの向こうから鼓をチラ見する。
「......あなたらしくもない。手練のくせして」
ボソリと呟かれた言葉。
―空気が、変わった。
遼介から八九座へと送る冷たい空気と、鼓から遼介へと送る...絶対零度の空気。
気圧で体が潰れそうな中、遼介が第1に取ったのは、鼓のご機嫌取りだった。
「つーくん、八九座の言ったことは気にしな―」
「せーんぱい」
言おうとした言葉を遼介はすっかり飲み込み、喉に詰まらせた。息が詰まる。この時、頭が良く察しのいい鼓をこれ程恨んだことは無いと遼介は思った。
「白状、しよっか」
「...はい」
まるで子供をあやすかの様に諭され(?)、遼介は大人しくなった。
「つーくんを見つける前は...その、かなり遊び呆けてまして...」
「...へぇ」
「好きだよって......よく言って、ヤったら捨てて...また新しいの見つけて...みたいな」
(好きの、大安売りセール。特売品。これだと、俺のこと好きってのも怪しいよね...)
「俺、ぜーんぜん気にしてないよ?先輩ってイケメンだもんねぇ?食いたい放題だもんね。...まぁ、俺はそんなことしないけど」
さらっと毒を盛るのも忘れずに、遼介を追い詰める。八九座はさすがにまずいか?と天の手を差し伸べようとするが。
「で、もっ、今はつーくんだけが...、」
「...言い訳嫌い」
鼓に気圧されて黙ってしまった。凍てつく視線に耐えきれず八九座は1歩引く。ほくそ笑む鼓の口が動いた。
「ねぇ」
「つーくん、好きだから...これは本当だから」
「...............へぇ。じゃあ、先輩。
俺が、いままで遊んできた人達を―殺してって言ったら?俺が好きなら出来ますよね?」
(出来ないくせに)
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