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土曜日と日曜日と月曜日のお話17
男が悶える姿を、鼓は立ち上がり、無表情で眺める。...鉄の仮面だ。どんなに男が悶え苦しもうとも鼓の表情は変わることがない。
(この人は、俺の瞳しか愛してないんだろうなぁ。きっと他の部分を見たら離れる。俺は、この姿が嫌いなのに。それだけ好きになる人は大嫌い)
見下ろす青い双眸は、海底のように冷たく光っていた。
「ねぇ」
「ぐぁっ...なん、だ」
話しかけると、男はなにを期待したのか脂汗を浮かべながら汚い笑みを返す。
「俺のこと、好き?」
「っっっ!」
息を呑む音が、リアルに聞こえた。鼓が蕩けるような笑顔をしたからだ。
遼介にはまだ見せたことのないそれを、名も知らぬ男にしたと聞いたら彼は怒るだろう。
「あ、ああ!好きさ、大好きだ!」
痛みを忘れ鼓の足元に縋りく。鼓は屈んで男の頬を手の甲で撫でた。
「どこが?」
「か、可愛いところだ!」
「可愛い...?」
「ああ、人目見た時からすごく好みな顔をしてたんだ!」
(...はい、失格)
少しでも希望を与えたのが悪かったと反省し、でもどうして希望なんて与えたのかと不思議に思う。
(先輩が、俺の全部好きだって言ってくれたから、ほかの人ももしかしたらって、思った。そんな夢物語あるはずないのに)
「なぁ、ヤらせてくれるのか?」
無言になった鼓に痺れを切らし問いかける。だが、鼓はふぃと視線を逸らし無視した。
その事に男は激昂し吠えた。
「優しくしてやったらいい気になりやがって...!別に好きなのなんてどうでもいいんだよ、ヤれりゃなんでもいいんだよ!」
「...そう」
鼓の目に色がなくなっていく。
次の瞬間には、メガネの奥に青い炎が灯っていた。
(このクズ。いい気になってんのはお前だろ。人のこと言う前に自分のこと見直してこいよ。クズはクズらしく這いずり回ってろよ、このクズ)
心の中で思いっきり罵った鼓は、それを敢えて表に出さないように言葉を選びながら―罵倒した。
「ヤルならヤルでいいけど、先輩が変に思って入ってきたらどうするの?時間考えたの?キスだけで終わるだなんてそんなことできないよね?低脳そうだもん、考えてない。断言出来るよ。
それにまだ鍵つけ終わってないから誰が入ってきても文句言えないよ?それと、先輩もうすぐ気づくんじゃないかな。もう結構時間経ってるし。…ってかさーーーー、あなたしか開けられない鍵つけたところでどうなるわけ?何、通う気?ば………っかじゃないの???」
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