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土曜日と日曜日と月曜日のお話33
月曜日、朝。鼓と遼介は揉めていた。
「嫌、一緒に行きたくないです」
「だめ、一緒に行くの」
相も変わらず夜這いにしに来る遼介を、いつものように鼓は蹴落とし、朝ごはんを作っていた。
その時、遼介は「今日は一緒に行くんだよね?」とさも当然というように言ってきたのである。
鼓にそんな気は一切ない。
付き合えて嬉しいが、自分がいれば遼介の評価が下がるかもしれないと危惧しているのだ。
その事を言ってみればそんなわけはないと断言されてしまった。そして今に至る。
「頑固だな。別に俺は気にしないって」
「俺が気にするんです!」
「じゃあ俺が周りを黙らせれば満足?」
「そういうことじゃありません!」
「周りは周りでしょ?つーくんと俺には関係ないよ」
そう言っても、と鼓は更には続けようとするが言葉が見つからず詰まる。
「もう……つーくん、手出して」
無意識に鼓は右手を出した。なんだろうと思いながら。
だが遼介が反対側の手を取ると―鼓は真っ青になった。
「やだっ…ごめんなさい」
「つーくん?」
ぱっと手を引っ込め、鼓は後ずさりする。
遼介は一瞬何のことか分からない様子だったが、すぐに理解したようで首をゆっくり横に振った。
「取らないよ、指輪。そんな簡単に愛想尽かすわけないじゃん。寧ろつーくんが逃げたいって言っても逃がさないよ」
「...取らない?」
「取らない。それ、ダイヤ付いてるし重いでしょ?エンゲージリングだし。これ俺とお揃いのやつ。...結婚式諦めるから今つけて」
と、渡されたのはマリッジリングだ。ウェーブのかかったプラチナのボディーに、中央には小さな石が1つ。
遼介にしてはシンプルなデザインだ。
「…………ッ」
途端顔が赤くなる。
(勘違いとか恥ずかしすぎるっ)
鼓のあまりの頑固さに遼介が愛想を尽かし、指輪を取り上げやっぱり付き合うのを辞めようと言うと思ったらしい。
(いや、勘違いさせるような先輩が悪いんだ)
開き直った鼓に遼介が頷く。鼓は口に出して言っていいないはずだが。
「そうだね、勘違いさせるような俺が悪いね」
「そうで、...あれ?」
だが、遼介は頷いていた。
「...先輩、心、読めるんですか」
「」
ふい、と視線を逸らされた。
(読心術が使えるとか……さすが先輩)
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