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土曜日と日曜日と月曜日のお話35
一緒に登校といっても、寮は敷地内にあるためそこまでの距離はない。
が、問題は夢ノ内が全寮制ということにある。敷地内にある分、大抵が同じ時間帯に登校し始めるのだ。
大量の生徒が寮から出てくる朝の時間。それも、鼓達がいる「かぐら荘」は1番人数が多い。
「...うわぁ」
鼓がもう嫌だという声を出した。エレベーターで乗ろうとする生徒を毎回の如く八九座が止めるのだ。
朝の混み合う時間帯で使うなと言われれば誰だって怒る訳だが、「氷川」という言葉が出るとみなこぞって道を開ける。
それが、2~6まで全ての階で行われ、最終的に「本当に氷川 遼介がかぐら荘にいるんだ」などといった話が寮内全域に回ってしまった。
八九座からすれば、ただ単に遼介を守るためにしているだけであって別に悪意がある訳では無い。
(だから余計に、タチが悪いんだけどね。見てよ...この先輩に送るキラキラビームと、隣にいる俺への殺気)
だから一緒に行きたくなかったのにと鼓は盛大なため息をついた。
「つーくん疲れた?」
「...」
(主にあなたのせいで)
「お姫様抱っこしてあげようか?」
「...やめてください」
視線に殺されそうでうまい返しが見つからなかった。
寮から出て学校までの道を歩いていると、寮にいる時以上に視線が集まる。
『本当に一緒にいるぞ...』
『ありえない』
『氷川先輩が汚れる、離れろよ!』
コソコソと聞こえる声。中には物騒なことを言っている者もおり、ため息が途切れることがない。
(この分だと、クラスの連中にも嫌われてる可能性あるなぁ...。まぁでも、上辺だけだったしどうでもいいか。先輩が愛してくれるならそれで)
こう思っているが、どれだけ自分が惚気けているのか鼓は知らない。
しかしながら、遼介は逆だった。この状況を、楽しんでいる。
「つーくん、見せつけちゃおうか」
「え?なにを―」
する気ですか、という鼓の声は掻き消された。遼介が、鼓の唇に触れたからだ。
自分の、唇で。
(―っ!)
「ったい!つーくん痛いっ」
突然のキスで一瞬思考が停止した鼓だったが、すぐに再起動し遼介の鳩尾を殴った。
「ふ、普通キスはもっとこう、ロマンチックなシーンでするでしょ…見せつけるためだけに俺のファーストキス奪わないでください!」
そう怒鳴って走っていってしまう。キスしたことは怒らないところが、鼓らしい。
遼介は、ロマンチック、ファーストキス、ファーストキス…と複数回頭の中で繰り返し、にやけ、すぐに追いかけていった。
後ろで八九座がじっと見ているのことを忘れて。
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