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土曜日と日曜日と月曜日のお話37

「おはよう」 男子校のはずだが、遼介が壇上に立ち声をかけただけで黄色い悲鳴が上がる。一人一人に手を振る姿に胸が痛み、鼓は目を背けた。その痛みに名をつけるなら、それは恐らく、ー嫉妬。 同時に棘のように突き刺さる視線。 (…噂になってるんだっけ) 講堂に移動中、あちらこちらから聞こえた話。直接言いに来ず、皆遠巻きに鼓を見ていた。 一昨日に加え、昨日今日と色々やらかしてきたのだ、そうなっても不思議ではない。 ないのだが。 (誑かしただの垂らしこんだだの…本当に馬鹿しかいないんだね。この学校) 根本的に事実と違った噂をされているのが、あまりにもアホまっしぐら過ぎると鼓はため息をつく。所詮は男子寮付きの高校、噂話くらいにしか花が咲かないようだ。 遼介をちらりと見、鼓を睨みと忙しない動きをする生徒達。睨み返すのも億劫で目を閉じ全部を無視した。 生徒会長としての挨拶もそこそこに、それはにこやかに告げられた。 「こうして集まってもらったのには、訳があるんだ。この報告が終わったら、みんな帰れるから聞いて」 シィ……ンとなる講堂。聞けと言われればすぐに静かになる。―先生からの指示はほぼ全無視なくせして。 「涼川 鼓くんって、知ってるよね」 ざわめきがばっと広がった。先生が注意しても静かになることはない。 (ちょっと…?) 鼓は段々と青ざめ始める。遼介の視線がこちらを向いているようで、下を向き気づかないふりをした。 「噂、みんな聞いてると思うけど」 ごくり、と生唾を嚥下する音が辺りに響く。鼓は違う意味でドキドキしていた。 「俺たちは付き合ってません」 (…………) 静寂である、見事なまでに。 そして、なぁーんだと誰かが大声で安心したかのように叫んだ。その一言のおかげか、静かだった講堂はさっきまでのざわめきを取り戻し、また煩くなった。 ―やっぱり噂は噂だな ―誰だよあんな噂流した奴 ―氷川さんが否定するなら嘘なんだろうね ―でも今朝のキスはなんだったんだ? ―安心した〜 それぞれが思い思いに口を開いては笑い合う。 鼓を除いては。 (ああそうか。みんなの前でこう宣言すれば変に噂されることもじろじろと遠慮会釈なく見られることもなくなるし。下手に騒がれることはなくなる。先輩やっぱり賢いな。…うん、でもなんでだろう。ちょっと、苦しいような…) 悶々。頭がクラクラする。 (言いづらいの、理解してるつもりなんだけど…) 鼓が顔を顰め辛そうな顔をしそうになったその時。 「でも婚約はしてます」 遼介が爆弾を落としていった。

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