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会う、会わせろ、会わせない 2
一方その頃。鼓は教室でぼんやりとしていた。
予鈴が鳴り、クラスが授業の用意をし始めても、ぼーっと窓の外を見つめている。
話しかける者がいないおかげで、鼓は存分に考えに浸ることが出来た。
(有酸素運動と無酸素運動について...有酸素運動は体脂肪を燃やして、無酸素運動は基礎代謝を増やす............太ってきたから、痩せないといけないかもしれないなぁ)
授業が始まるも鼓は虚空を見つめたまま。全く講師の話を聞いていない。
恐ろしいことに、鼓は授業を聞かずともテストで満点を取ることができる。軽く問題を解きさえすれば、あとは何もしないでいいのだ。
それは長年培われてきた読解力と努力によるものだが…そこはまた別の話で。
(退屈、だなぁ...。2年って言っても、1年生の勉強してるし、意味わかんない。大体成績悪いけど、親が頼み込んで上がってきたやつもいるから、授業進まない...予習復習くらいしとけよ)
大きくため息をついて鼓は机に臥せった。先程講師が配ったプリントは既に終わらせてしまっていた。
「なぁ...」
「......」
「涼川?」
「え、」
名前呼ばれ、初めて自分に話しかけられているのだと気づく。
「なに?」
(珍しい、話しかけてくるなんて)
怪訝そうな表情になっていないかドキマギしながら聞く。
「これ、教えてくれ」
プリントを差し出され、鼓はさらに珍しい、と驚く。今までこんな風に教えてなどと言われることなどなかったからだ。
「...いいよ」
教えるくらいなら別にいいや、と許諾すると隣の席から椅子だけ持って移動してくる。
「どこが分からないの?」
「...............ぜんぶ」
「」
今なんて言った?と聞き返しそうになるのをとことんまで抑えつけ、鼓はゆっくり深呼吸した。
「ごめん、どこって言った?」
「だから全部だって」
(こいつダメな奴か)
今すぐ切り捨てたいのは山々だが、頼まれたものは仕方がない。
鼓は諦めて一応は書き込まれたプリントを見た。
(......なんでここにこの公式が入るんだよ。こっちは中学の時の公式使えば出来る問題。ここ、計算間違いしてる。つか足し算引き算もできないの?小学4年生...ううん、1年生からやり直せ)
かなり辛辣な感想を心に潜ませながらも鼓は笑顔を作る。
「分かった。じゃあ教えるから聞いてて」
(頭痛い。この学校馬鹿しかいないの?)
助かる、と隣の席の人物は言った。
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