76 / 437

会う、会わせろ、会わせない 2

一方その頃。鼓は教室でぼんやりとしていた。 予鈴が鳴り、クラスが授業の用意をし始めても、ぼーっと窓の外を見つめている。 話しかける者がいないおかげで、鼓は存分に考えに浸ることが出来た。 (有酸素運動と無酸素運動について...有酸素運動は体脂肪を燃やして、無酸素運動は基礎代謝を増やす............太ってきたから、痩せないといけないかもしれないなぁ) 授業が始まるも鼓は虚空を見つめたまま。全く講師の話を聞いていない。 恐ろしいことに、鼓は授業を聞かずともテストで満点を取ることができる。軽く問題を解きさえすれば、あとは何もしないでいいのだ。 それは長年培われてきた読解力と努力によるものだが…そこはまた別の話で。 (退屈、だなぁ...。2年って言っても、1年生の勉強してるし、意味わかんない。大体成績悪いけど、親が頼み込んで上がってきたやつもいるから、授業進まない...予習復習くらいしとけよ) 大きくため息をついて鼓は机に臥せった。先程講師が配ったプリントは既に終わらせてしまっていた。 「なぁ...」 「......」 「涼川?」 「え、」 名前呼ばれ、初めて自分に話しかけられているのだと気づく。 「なに?」 (珍しい、話しかけてくるなんて) 怪訝そうな表情になっていないかドキマギしながら聞く。 「これ、教えてくれ」 プリントを差し出され、鼓はさらに珍しい、と驚く。今までこんな風に教えてなどと言われることなどなかったからだ。 「...いいよ」 教えるくらいなら別にいいや、と許諾すると隣の席から椅子だけ持って移動してくる。 「どこが分からないの?」 「...............ぜんぶ」 「」 今なんて言った?と聞き返しそうになるのをとことんまで抑えつけ、鼓はゆっくり深呼吸した。 「ごめん、どこって言った?」 「だから全部だって」 (こいつダメな奴か) 今すぐ切り捨てたいのは山々だが、頼まれたものは仕方がない。 鼓は諦めて書き込まれたプリントを見た。 (......なんでここにこの公式が入るんだよ。こっちは中学の時の公式使えば出来る問題。ここ、計算間違いしてる。つか足し算引き算もできないの?小学4年生...ううん、1年生からやり直せ) かなり辛辣な感想を心に潜ませながらも鼓は笑顔を作る。 「分かった。じゃあ教えるから聞いてて」 (頭痛い。この学校馬鹿しかいないの?) 助かる、と隣の席の人物は言った。

ともだちにシェアしよう!