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会う、会わせろ、会わせない 5
『ダメ?』
『ダメ』
口パクで会話しているというのに、よく理解出来ることか。
『5時間目終わったら、会いに行くね』
『はい』
『教室で待ってて』
頷く鼓に満足し、遼介は最後に『好きだよ』と声に出さず言う。鼓は顔を真っ赤にしぱっと窓際から逃げた。
「かわいい...」
遼介は終始顔が熔けていた。
その横で口パクを詩帆が読み取っていたというのに。
5時間目が終わり、遼介は鼓の元へ立ち寄った。
「つーくん、来たよ」
「あ、先輩、.....だ....?」
駆け寄ろうとした鼓が足を止める。それもそのはず、遼介のいる場所から斜め後ろの柱に誰かが隠れているからだ。
「ああ、さっきの俺とつーくんの会話分かったみたいでね。憑いて来ちゃったんだ」
憑いて来た.........?と鼓が神妙な顔で幽霊―詩帆を見る。
「会話しないって条件なら一緒に来てもいいって言ったんだ。ごめんね気持ち悪くて」
「き、気持ち悪いっていうか...怖い」
詩帆は終始、鼓と遼介を舐めるように眺めている。
遼介はその言葉を聞いてしてやったりと笑った。遼介が詩帆に付いてきていいと言ったのには、わけがある。
こうして陰からじっと鼓を見させて、恐怖感を植え付けさせるためだ。
鼓の苦手なものがホラーであり、それを利用したのだ。物陰からニヤつく男―気持ち悪さと恐怖がいい感じに際立っている。
「でも...あれ、先輩の友達なんじゃないですか?」
「う〜ん...腐れ縁だからね、そこまでだよ。切っても切れない鎖的な感じかな」
「それでも、いいと思います。友達、いいなぁ...」
羨ましそうに見上げる鼓。身長差が20cm以上にある2人だ、鼓はかなり上向いて遼介と話している。首が痛くなりそうだ。
「うん、分かった。俺、詩帆と縁切ってくるね」
くるりと踵を返し詩帆の方に向かおうとする。
「なんでそうなるんですか?!」
鼓は慌てて腕に絡みついた。
「だって、つーくんが寂しそうだから。つーくんが俺だけなら、俺もつーくんだけにしないと」
「極論すぎる!大丈夫ですからっ」
ぐいっと腕を引っ張る。すると遼介はよろめき壁に手をつき―それは所謂壁ドンというやつになった。
「つーくん...」
「え、ちょ、え...ここ教室のま、えっ......っ」
公開処刑とは、まさにこの事か。遼介はキスをした。
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