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発言禁止令 2
あれ、鼓くんは?と辺りを見回す詩帆は、ある一点を見つめたらーっと涎を垂らした。
視線の先には、鼓が洗面所から覗く姿があった。見られた鼓はひっ、と声を上げ戸を閉めて逃げる。
「鼓くんGJ!(Good Jobの略語)」
ついでに鼻血がたらりと。
「おいこら、変態涎 鼻血垂れ流しお化け。喋るな」
「増えた?!俺に人権を返して」
「お前人間だったのか」
「隆盛...?お前だけは信じてたのにっ」
発言禁止令をそうそうに破った詩帆は、遼介に後頭部を叩かれていた。
隆盛と、隆盛に口を塞がれた詩帆がリビングに通される。
詩帆がんー!んーー!と何かを言いたげに叫ぶが誰にも反応されることはなかった。
「で、なんで来たの?」
「んんんん、んんんん!(お茶くらい、出してよ)」
「お茶の入れ方なんて知らない」
なぜ今のでわかった。という突っ込みは置いておいて、だ。
その頃の鼓は悶々と悩んでいるのである。
(出るに出られない)
そうなのだ、部屋はリビングの隣なため、必然的にリビングを通らなければならないのだ。
(多分あの人、授業中に裏庭で見た人だ。誰かわかんなくて変態鼻血お化けとか言っちゃったし...。仮にも先輩の友達なんだから、先輩の体裁守らないといけないのに。文句言いに来た的な...?)
どうやら詩帆の目的が自分だとは思っていないらしい。あんなにギラついた目で見られておいて。
悩む鼓の耳に洗面所の外から声が届いた。
「つーくん出ておいで?」
「?」
遼介だ。鼓は出ていいのか?と確かめるためにそろそろと洗面所の戸を少し開けた。
「よいしょ」
「ちょっ?!」
ぐんっと引っ張り出されそのまま腕に抱き込まれる。
(...あったかい)
「はい、つーくん。リビング行こうね〜」
ずるずると引きずられ、鼓ははっと気づいた。
「え、え、いいんですか?!」
「なにが?...ああ、詩帆に気を使う必要はないよ」
「い、いやそうじゃなくて!」
鼓は、「お前の恋人って口悪いのな。選んだお前の神経疑うわ」などと、遼介が悪く言われることを懸念しているのだ。
(これからはこういう言動控えたほうがいいのかな)
引きずられるままにリビングに連れてこられ、鼓は―――困惑した。
詩帆は、ガムテープで体をぐるぐる巻きにされついでに口も塞がれていたのだった。
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