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今夜は一人だけだから 1

「ただい...ま...」 バタン...と玄関の戸が閉まると同時に鼓は床に倒れた。 それもそのはず。授業中は何もしてこないもののクラス中からの視線攻撃、及び前より派手な全体無視が一日中続いたのだから。 以前は肩がぶつかると「ごめん」程度の会話があったはずだが今や肩がぶつかろうと何があろうと無視である。 そして移動教室などで教室を出る度に向けられる羨望と怨み、嫉妬等の視線。加えて陰口。 どれもこれも悪質であり、遼介がいたからこそ軽かった嫌がらせも、今や卑劣を極めていた。 「つか...れ......た...」 鼓はそのままピクリとも動かなくなり、部屋は静寂に包まれた。 かのように思えたが、ふいにメールの受信音が響く。 鼓は動かず、這うようにしてリビングに入り、やっとの事でソファーにたどり着いたところで携帯を開いた。 「先輩...」 まぁ、当たり前だが遼介以外登録していないのだからメールは遼介からである。 (会いたいなぁ...) 『TO 遼介 件名 なし (*´︶`)ノオツカレサマ♪ 早くつーくんに会いたいよ...まだ1日目なのに』 「ふふ...えっと...俺も、ですよ...っと」 遼介が気持ちを言い当てたお陰か、鼓の顔に少し笑が灯る。 「お風呂...めんどくさい...ご飯...ご飯......ご、はん...」 ずるずるとソファーからずり落ちる鼓の目はほぼ閉じかけていて、今日一日の疲労度が良くわかる。 痩せの大食いの鼓が食事すら面倒と思ってしまう程なのだ。 嫌がらせが特に酷かったのは帰りで、直接攻撃はなかったものの...靴が、汚れていたのである。靴箱に貼り紙がされ、靴には泥が詰め込まれ、挙句ぴょこんと蛙が靴箱から顔を出す始末。 カエルだ、可愛い、と鼓が捕まえようとしたのを遼介が見たら鼻血を出していたかもしれない。 そんなこんなで、鼓は歩いて帰ることが出来ず仕方なしに八九座に新しい靴を用意してもらうことになったのだった。 八九座は、鼓になにかあったら大変だからと遼介が置いていっている。 (よくある話だよね。次から鍵つけよう) もう疲れたし、このまま寝ようかな...と鼓が瞼が閉じることに抵抗しなくなった時。再びメールが届いた。 『TO 遼介 件名 なし つーくん、せめてお風呂には入ろうね? (`o´)』 (......どっから見てるんだろ) 鼓は風呂に入る用意をし始めた。

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