114 / 439

死活問題 5

遼介の爛々とした目を見て、鼓は遼介の言いたいことが分かり身構えた。 「修学旅行ついて行きたい」 (やっぱり) 「ダメに決まってますけど」 「言うと思ったよ!」 「当たり前です」 項垂れる遼介。鼓は諦めてそんなことをしているのだと思っていたが、実は違う。 (今年の修学旅行はカナダか。どうにかして"仕事"としてカナダに行こう。可愛いつーくん1人で海外になんて行かせられない。 どうせなら国内旅行にさせようかな?それだと俺もある程度動ける) 諦めたのではなく、策略を練っているのだ。 この分だと、今年の修学旅行は国内になる可能性は高いだろう。 「可愛い可愛いつーくん」 「っ、いきなりなんですか?ご機嫌取りですか?」 「違うよ」 デレデレする遼介の意図を、その時鼓は読み解けなかったのだった。 そうして時間が経ち、鼓も遼介も出る時間になる。結局時間は8時まで(無理やり)延長され、同時刻に出ることになったのだ。 「先輩携帯鳴りまくってますけど...」 「そうだねぇ。無視していいよ」 「だ、大丈夫ですか?」 「ぜーんぜん大丈夫。それよりもつーくんを愛でることの方が大事」 「ぅ...っ......そうですか」 最初の頃こそ、遼介の恥ずかしい発言に耐えていた鼓だったが。とうとう限界を迎えたらしく、言葉に戸惑い恥じらう。やめてほしいらしい。 「ああ、恥ずかしそうにするつーくん可愛いなぁ。...はぁ......はぁ......」 こういうのも、やめて欲しいようだ。後から、(かいな)に抱いた鼓に遼介は鼻をぐいぐいと押し付け嗅ぐが、鼓が腕を突っ張って辞めさせた。 「あ、あの...に、匂いを嗅ぐのはちょっと...」 「舐めるのは?」 「もっとだめです!」 「なら嗅ぐのは許して?」 「うううぅん......」 「舐めちゃお」 「だめ!」 「嗅ぐのは?」 「んんんん...」 「いただきま〜す」 「や、や、やっ、やめっ!ほら先輩、もう出る時間なんですから!」 「...チッ......」 (これ程学校と家を恨んだことは無いな...) 遼介は笑みを絶やさないが、そんなことを思っていた。 寮を出ると、黒塗りの車が1台止まっていた。遼介のところの車だとすぐさま気づいた鼓は、じゃあ先輩今度は帰ってきちゃダメですよ?と声をかけてその場を離れる。 「あ、待ってつーくん」 ぐっと腕を引かれて立ち止まると、遼介は鼓の耳に唇を寄せた。 「―隣の席の子と仲良くするのも、程々に...ね?」

ともだちにシェアしよう!