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鷲野 と 鼓 5

その後も鷲野は(ことごと)く失敗をし続けた。 鼓は折れることなく、そして弱みを見せることなく立ち続けている。 くそ、さっさと折れればいいのに。そう思うのだが、一向にその願いは叶わなかった。 そうして、ある時鷲野の怒りがとうとう振り切れた。鼓と氷川 遼介が付き合い始めたという噂が流れ始めたからである。 自分の手中に収めるはずが、ひらりと蝶のように躱され逃げられ、挙句知らぬ他人(ひと)の肩に優雅に止まってしまった。 しかもその他人(ひと)とは、氷川 遼介だ。理事長の息子、という権力を行使しようとも勝てぬ相手。 本当か、と疑い鼓の部屋に人を送り込めば全員が全員本当だと言う。 腹が立ち、苛立ち、寮から一歩も出ず只々燻っていた。 そんな時転機が訪れる。氷川 遼介が一時帰宅するというものだった。 それも、この1はいないらしい。 止まる肩が無くなってしまった蝶はひらりひらりと飛び交いどこかとまれる所を探している。 氷川 遼介が置いていった2人だが、そこに止まる気はないらしい。 この機に捕まえてしまえば...。 鷲野はほくそ笑んだ。 木曜日まで鷲野が来なかった理由、それは下準備をしていたからだ。部屋にGPSを遮断する機会を置き、ドアは鉄製に変えた。 鼓には退学させるぞ、とでも脅せば氷川 遼介とは別れるだろう。そう鷲野は簡単に考えていた。 金曜日になれば、鷲野は動き出す。 その後、どうなるかも考えずに。

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