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鉄の籠
鼓は金曜日まで持ちこたえ、気分が踊っていた。明日には遼介が帰ってくるからだ。
というものの、遼介はどうやら忙しいらしくメールの件数が激減しているのである。1日30~40届いていたメールは、今は10数件になっていた。
そのメールの量をみて詩帆はドン引きしていたが、鼓は幸せそうである。
「鼓くん、機嫌いいね!」
「明日、先輩が帰ってくるので」
「もう帰ってくるのか、遼介...ってか、鼓くんは遼介のこと「先輩」としか呼ばないよね」
毎日、詩帆と隆盛は鼓の寮まで迎えに来る。一応八九座もいるのだが、それだけでは不安だ、と遼介が頼んでいるのだ。
「俺らのことも「先輩」だし、全員一緒だったら呼びづらくない?」
(そういえば俺、先輩の名前呼んだことない)
元より人の名前を覚えるのは得意だが呼ぶことのない鼓。先輩はつーくんって呼んでくれてるよね、と鼓は遼介の声を思い出す。
思わず頬が緩み詩帆はその顔を見てくすくすと笑った。
「あれ、鼓くん?ニヤけてるけどどうしたの?」
「どうもしてません」
「ホントかなぁ〜」
「おい詩帆。涼川くんをいじめるのはやめろ」
いじめてないもん!と詩帆は頬を膨らませた。
「それで一つ提案なんだけど」
「?はい」
「遼介のこと、「先輩」じゃなくてあだ名か何かで呼んでみるってのはどうっ?」
(あだなか、なにかで、よんでみる)
言葉を噛み砕き意味を理解した途端、大きく首を左右に降った。
(無理無理無理、そんなこと出来るわけないーー!いくら先輩が俺のことあだ名で呼んでるからって、俺からは無理!)
叫びたい思いをぐっ...と堪える。
「む、無理です!!」
(あ、堪えれてなかった、叫んじゃった)
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