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鉄の籠 2

「例えば、「りょーたん」とか。バカップルぽいよね」 「ばかっぷる」 「つーくんに因んでりょーくんとか。初々しい」 「それ恥ずかしいです」 「普通に遼介、とか」 「恐れ多い...」 「氷川!とかでも。高飛車な感じがして俺は好き!」 「俺そこまで偉くないです...」 「鼓くんは遼介のこと「先輩」付して呼びたい感じ?」 「そう、ですね。慣れないですし」 「でも鼓くん。遼介は呼んでもらえたら嬉しいと思うよ、単純に。「先輩」付けててもいいからさ、「遼介先輩」とか」 「ぐ、ぅ...」 口を結び唸る。そういうものなのだろうか、と。ただ名前を呼ぶだけなのに、それだけで先輩は喜ぶだろうか。 検討してみます、と鼓がもごもご言うと詩帆はにこやかに笑った。 「あ、因みに俺のことはしーちゃんで大丈「涼川くん、授業に遅れる。早く行こう」ちょ、隆盛!!!!」 今日は日直だから迎えに行くの遅くなる、待っててくれ、と隆盛が言い鼓は2人と別れた。 教室に足を踏み入れ、鼓は顔を顰めた。空気が、重苦しいのである。 珍しいことに何も書かれていない黒板と何もされていない机(靴は相も変わらずだった)。 その何もされていない席に座っているのは、鷲野だった。 「...」 鷲野は足を組み、こちらを無表情で見つめていた。 (どうせなら休みに休んで出席日数足りなくなって退学すれば良かったのに) 憂鬱な気分になりながら机に近寄る。 「...なに」 「...」 鼓が声を掛けようと無言だ。ふと、鼓は隣の席を見る。いつもならこの時間に来るはずなのだが、いない。 遼介に言われたとおり、鼓は隣の席とはあまり仲良くしないようにした。 2人がしていたのは最低限度の会話のみで、それでもクラス中から無視を受けている鼓からすれば心休まる時でもあったのだが。 「...ねぇ、隣の席の人は?」 鷲野に目を向けると、鷲野はさぁ、と言って肩をくすめるだけだった。

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