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鉄の籠 9
ガッ、と髪を掴み上げられ、鼓はその相手を睨みつけた。
「...まだかよ」
「痛いんだけど」
「まだなのかって聞いてんだよ」
「.........まだ、もう少し」
「チッ」
(くそ腹立つ!なんだよ、なんなんだよ糞が!そんなに苛立つならどっか行けよ馬鹿が!てかそれならなんで俺のこと部屋に呼んだわけ?!意味わかんねぇよっ!)
鞄で殴りつけながら叫びたいのを堪え、日直が書く日誌を書く。
詩帆と隆盛が去ってからすぐ、鷲野は鼓の席に近づいてきた。あまりあの2人とは関わりたくないらしい。
「あのさ、聞きたいんだけど。なんで部屋に呼んだの?」
「...前に言っただろ、お前を陥落させてみせるって」
そんなことを丸切り覚えていなかった鼓はそうだっけとだけ返した。ついでに、陥落なんてしてないけど、と心の中で毒づいた。
「古木、ちゃんと無事だよね」
「来てみて確かめればいい」
(行ったらすぐに逃げ出してやるけどね)
鼓は自分の力に自信があった。
幼い頃から誘拐されそうになったり性犯罪(未遂)に巻き込まれそうになったりと、荒波を乗り越えてきた。
それにより、鼓はある人からある程度の護身術は学んでいるのだ。
鷲野は痩せていて見るからに体調が悪そうであり、鼓の華奢な体でも不意打ちの攻撃で無ければ逃げ出せそうなのである。
(大丈夫大丈夫、軽く鳩尾を打てば倒れてくれるだろうし)
「...ほら終わったよ」
最後の「よ」まで言わせることなく腕を捕まれ引き摺られる。
「か、鞄!」
「どうでもいい」
「どうでも良くない!」
抵抗虚しく鼓は教室から引きずり出された。
(ひめみや荘だから、高級なんだろうな)
鼓は無理矢理連れ出されたにも関わらず、数分もするもこんなことを考え始めていた。
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