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忍び寄る不安と迫り来る体育祭 1

体育祭まで後1週間。 練習は日に日に多くなり、毎時間ごとに隠れて鼓を見に来ていた遼介も見かけることが少なくなっていった。 それにプラスして、体育祭の準備により遼介の帰りも遅くなる。 鼓と遼介の時間は少しずつすれ違っていき......... と、普通なら思われるだろうが、全くもってすれ違うことはなかった。遼介の隠れて見ること(盗撮は別として)は確実に減ったのだが。 すれ違わない理由、それは、放課後毎日遼介が生徒会室に鼓を拉致していたからだ。 「......これもう、入部と変わらないですよね」 生徒会室に置かれた高級茶葉を蒸らし優雅に飲む鼓の姿は、正に様になっている。 見た目が見た目だけに違和感がない。 「でも鼓くんがいてくれるおかげで、遼介が凄いスピードで仕事片付けて早く帰れるよ!ありがとう!」 「うーん...でも俺、なんにもしてませんよ。ここでお茶飲んでるだけで...」 「それでいいんだよ〜」 今日も早く帰れる〜!と大きく伸びをする詩帆。 (野沢先輩も、こうして見ればちゃんと書記の仕事してて賢そうなのになぁ) 「ねぇ鼓くん。今めっちゃ失礼なこと思ったでしょ」 鼓は首を傾げなんのことでしょうか、とシラを切った。実際、詩帆の成績がどん底なのは確かである。 この会話中に遼介が一切入ってこないのが不思議だが、それもそのはず、遼介は無心でパソコンを打ち続けているのだ。 「遼介先輩、凄い集中力ですね」 「ああ、あれは見栄だ」 「え」 「いつもはあんなに早くない。涼川くんがいるからかっこいい所を見せたいだけだろう」 「.........へぇ」 ちら、と見れば遼介は1度ピタッと完全に動きを止め直ぐに動き出した。 (話聞こえてるんだ。さすが地獄耳) 話が聞こえてるとなると、少し遊び心が湧いてくる。 遼介の近くまで行き、耳元で 「帰ったら.......し.....げ...ますよ」 と囁いた。 途端、遼介のキーボードを打つ速度は格段に上がり指先はあらゆる方向に伸びる。残像が現れそうな程の速さだ。 (わ、すごい。さすが先輩だなぁ) くすくすと笑い、鼓は生徒会室のソファーに戻ってきた。そして紅茶を何口か含む。 その光景を間近で見ていた二人が目をぱちくりとさせた。 「鼓くん、何言ったの?」 「帰ったら俺からキスしてあげますよって」 ((ああ、この子小悪魔だ...)) 詩帆と隆盛は同時にそう思い、すっ...と目を逸らした。

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