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忍び寄る不安と迫り来る体育祭 2
「じゃ、あとはよろしくね」
「は、早い!もう終わったの?!」
手元と遼介を何度も交互に見る。詩帆の仕事はあと半分以上も残っていた。それは隆盛が手伝ってようやくの量である。
「先輩、この紅茶美味しいですね」
「ロイヤルブレンド、かな?スコーンともよく合うよ」
「スコーン...作ったことあります」
「それなら、今度作って?最高の茶葉と最高のお菓子 !その日一日が最良の日になるよ」
ぽっ、と鼓の頬に朱が灯った。
(この人、恥ずかしげもなくよくそんなこと言えるよね)
鼓をお姫様抱っこして帰りたい!新婚ごっこしたい!と叫ぶ遼介を窘め二人は部屋に帰ってきた。
リビングに入らず鼓を壁に追い詰める。所謂、壁ドン。
「さぁさぁつーくん!俺にキスしてくれる約束だよね?」
「あ。」
「何その顔。忘れてたの」
遼介の顔が不貞腐れたようになる。その顔に微笑んだ。
「...忘れてませんよ、ほら、屈んでください」
膝を少し折ると、鼓の目の前に遼介の頬が来る。
「...」
(唇はさすがに恥ずかしいから、頬にしようって思ってたけど。まさか、分かったのかな)
「分かるよ、つーくんのことだから」
「、」
何も言っていないはずなのに、言い当てられた。遼介がこっちに向かって微笑んだ瞬間。
「!」
鼓はサッ...と軽く唇と唇を触れ合わせた。
「こんなことするのは、想定外ですよね」
「想定外すぎるよ」
自分からしておいて、鼓の頬は熱く紅色になっていた。そんな鼓を可愛いと愛でてお返しだよとキスをする。
目、鼻、頬、唇―......。
「ふぅ...」
「つーくん大好き」
甘い時間が、とてもゆったりと流れていく。
が、それも束の間。
ガンガンガンガンガン...と部屋中に無慈悲にも鳴り響くノック(?)音。
詩帆これからか、隆盛か。隆盛はそんな野暮なことをするような奴では無いが...。
どっちにしろ、鼓が驚き肩をビクつかせた事で遼介の苛立ちは早々と上昇したのだ。
戸を叩いた相手は誰であろうと異常な冷気を浴びることとなるだろう...。
「つーくん待っててね」
「は、ぃ......」
まだ余韻に浸り蕩けている恋人を置いてドアを開けた。
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