159 / 440
忍び寄る不安と迫り来る体育祭 3
開けると、居たのは1年生だった。
「あ、あの!こんな時間にすみません」
「ああ、うん。どうしたの」
培われてきた感情を隠す技術。遼介は作り笑顔を、絶対に鼓には見せない笑顔を生徒に向けた。
「少し...時間いいですか」
「ここじゃダメかな」
「え、あ...ちょっと......部屋に入ってなら...」
チッと心の中で大きな舌打ちをする。これは多分告白だろう。
(中にはつーくんがいる。余計な心配は掛けたくないし、不安にもさせたくない。ここで払っておくべきかな)
「ごめんね、今、少し取り込んでて」
「す!少しだけでいいんです!お願いします!」
ガバリと頭を下げられ、どうしようかと悩む。これ以上時間が長くなると玄関にいる鼓が...............
"玄関にいる鼓が"?
遼介はぐるっと体を回転させドアの施錠を確かめた。
ガタッ。
「......」
閉められている。それはそうだ。こんな場所でこんな会話をしていれば、秀才な鼓のことだ、なんの事か察してしまうだろう。
つまり、聞こえていたのだ。
そして、浮気をして亭主の如く締め出されてしまったのだ。
(つーくん〜〜......)
ノブをコンコン、と叩くも反応はない。ひめみや荘やみやび荘であればカードキーで開くものの、かぐら荘はカードキーでも鍵でも開く。
カードキーを申請するには金がいることを知った鼓は元来より鍵派でやってきたのだ。
締められてしまえば開かないし、だいいち鍵は鞄の中―部屋の中である。
(かわいいけど...俺にはつーくんしかいないっての、まだ信じれてない感じかなぁ)
まだ完全には堕ちてくれる気はないらしい。
「......いいよ、聞いてあげる。ここでお願い出来るかな?」
振り返って、1年に言う。すると目を輝かせて次に顔を赤くさせた。
表情のよく変わる子だ、と遼介は思ったが直ぐに「まぁ鼓の方が可愛いけど」と継ぎ足した。
遼介がここで1年にわざと告白させるのには理由がある。
「氷川先輩...ぼ、僕、先輩の事が好きですっ」
「............うん。ありがとうね」
向こう側にいる鼓は、気が気出ないだろう。遼介が告白を断らず自分から離れてしまうのではないかと。
それこそが遼介の狙いである。
「でもごめんね」
遼介は、鼓に「遠回しに」告白するつもりだ。
ともだちにシェアしよう!