161 / 437
忍び寄る不安と迫り来る体育祭 5
「ッ」
急に態度を変えた遼介に1年はびくりと肩を跳ね上がらせる。
その態度に少し気を良くしたのか、手を緩め、しかし無表情で氷のような目付きを1年にを向けた。
「聞いていれば、鼓の悪口とか噂ばっかり......それのどこに信憑性があるの?君は鼓の何を見てそう判断したの?俺は脅されたことなんて1度もないよ。だいたい、俺が脅されて否応なしに付き合うと思うの?まさに節穴だね。俺のどこを見てそう思ったんだか。
それに、他に何を言うかと思えば今度は自分の自慢話。正直に言ってあげるよ、君の俺の好みじゃない。かすっても無い。俺の好みはね、鼓だ。「鼓みたいな子」じゃなくて、鼓自体が好みなんだよ。性格は人を貶す君よりずっといい。
あとは......ああ、テクニックがあるんだっけ?」
グイ、と相手の体を引き寄せじっと目を見つめる。1年の顔を既に色を失い青白く、額には冷や汗が浮かんでいた。
「そんな人の手垢がついたテクニックなんて要らない」
「!」
「どうせなら少しずつ少しづつ、身体の細部まで快楽の色に染めていって、快感に溺れる姿の方がいじらしくて可愛い。初めてなら尚更。初めての気持ちよさに悶え喘ぐ姿が俺は見たいんだよ」
鼓たちの部屋は7階。他には誰も住んでいないせいか、奥歯を噛み締める音は余計に廊下に響く。
「君、俺と鼓がグラウンドの真ん中でキスしてたの見てたでしょ?」
「......み、みて、ました」
「ああやって鼓は俺がキスをすると恥ずかしがるんだ。君には出来る?「キス如きで...」って思ってる君には無理なんじゃないの?」
思っていることを言い当てられ、1年の顔がカッと赤くなる。それは怒りか羞恥か......。
「初々しいのが好きなら...それがいいなら頑張りますから...だからっ...っ!...」
ドサリ...
緩めた手を完全に離すと、1年はふらつき尻もちを着いた。
遼介はそれを上から見下ろす。
蛍光灯の逆光で、1年には遼介の表情を見ることが出来ない。
「聞こえてなかったの?
じゃあ、もう一回だけ言ってあげる。
俺の好みは、鼓だけだよ」
しゃがんだ遼介。その顔を見た途端、相手は後ずさり泣きながら逃げていく。
と、同時にガチャリと玄関の鍵が開く音がする。
「つーくん、これで満足かな?」
「やり過ぎじゃないですか.........?」
扉の隙間から鼓が顔を出す。遼介はゆったりと首を横に振る。
「これくらいが丁度いいよ。俺の大事な大事なつーくんを貶したんだ。それに......」
遼介が鼓の髪を撫でる。
「つーくんも、中で笑ってたでしょう?」
「.........いいえ」
鼓は微かに微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!