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忍び寄る不安と迫り来る体育祭 5

「ッ」 急に態度を変えた遼介に1年はびくりと肩を跳ね上がらせる。 その態度に少し気を良くしたのか、手を緩め、しかし無表情で氷のような目付きを1年にを向けた。 「聞いていれば、鼓の悪口とか噂ばっかり......それのどこに信憑性があるの?君は鼓の何を見てそう判断したの?俺は脅されたことなんて1度もないよ。だいたい、俺が脅されて否応なしに付き合うと思うの?まさに節穴だね。俺のどこを見てそう思ったんだか。 それに、他に何を言うかと思えば今度は自分の自慢話。正直に言ってあげるよ、君の俺の好みじゃない。かすっても無い。俺の好みはね、鼓だ。「鼓みたいな子」じゃなくて、鼓自体が好みなんだよ。性格は人を貶す君よりずっといい。 あとは......ああ、テクニックがあるんだっけ?」 グイ、と相手の体を引き寄せじっと目を見つめる。1年の顔を既に色を失い青白く、額には冷や汗が浮かんでいた。 「そんな人の手垢がついたテクニックなんて要らない」 「!」 「どうせなら少しずつ少しづつ、身体の細部まで快楽の色に染めていって、快感に溺れる姿の方がいじらしくて可愛い。初めてなら尚更。初めての気持ちよさに悶え喘ぐ姿が俺は見たいんだよ」 鼓たちの部屋は7階。他には誰も住んでいないせいか、奥歯を噛み締める音は余計に廊下に響く。 「君、俺と鼓がグラウンドの真ん中でキスしてたの見てたでしょ?」 「......み、みて、ました」 「ああやって鼓は俺がキスをすると恥ずかしがるんだ。君には出来る?「キス如きで...」って思ってる君には無理なんじゃないの?」 思っていることを言い当てられ、1年の顔がカッと赤くなる。それは怒りか羞恥か......。 「初々しいのが好きなら...それがいいなら頑張りますから...だからっ...っ!...」 ドサリ... 緩めた手を完全に離すと、1年はふらつき尻もちを着いた。 遼介はそれを上から見下ろす。 蛍光灯の逆光で、1年には遼介の表情を見ることが出来ない。 「聞こえてなかったの? じゃあ、もう一回だけ言ってあげる。 俺の好みは、鼓だけだよ」 しゃがんだ遼介。その顔を見た途端、相手は後ずさり泣きながら逃げていく。 と、同時にガチャリと玄関の鍵が開く音がする。 「つーくん、これで満足かな?」 「やり過ぎじゃないですか.........?」 扉の隙間から鼓が顔を出す。遼介はゆったりと首を横に振る。 「これくらいが丁度いいよ。俺の大事な大事なつーくんを貶したんだ。それに......」 遼介が鼓の髪を撫でる。 「つーくんも、中で笑ってたでしょう?」 「.........いいえ」 鼓は微かに微笑んだ。

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