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明日は体育祭なので頑張りません 4
それが心に突き刺さったのだろうか、鼓は遼介を見上げたまま固まってしまった。
目は虚ろになり、視線は空を切る。
(俺は、いい子、じゃない。違う、違う、違う、違う、違う、)
遼介が頭を撫でてくれているというのに、頭の中はそれどころではない。混乱し、困惑し、奥歯を噛み締める。
(俺、"僕"、"僕は"、悪い子、で、だから、だめで)
(だから、違くて...ごめん、なさい、ごめんなさいごめんなさ)
(いやだ、やめ、、ごめんなさい、お願いしま)
「...つーくん?」
いち早く鼓の異変に気づいた遼介は、すかさず鼓を腕の中から解放した。
遼介は酷く混乱した。鼓の目は焦点が合っておらず、虚空を見つめていたのだ。
「つーくん...?、つーくん!」
「ッ、」
「鼓!!!」
「ひっ、は、ぁ...?、せん、ぱ...」
何度か強く呼びかけ、漸く昏い瞳が遼介を見た。
額に脂汗が滲み、だが顔は青白い。加えて唇はワナワナと震えており目は潤みやはりどこか空を見つめていた。
どう見ても様子がおかしいのはあきらかである。
今言った言葉の中で、どれかが鼓を不安定にさせたことは間違いない。が、遼介にはそれがどれなのか皆目検討もつかない。
それはそうだろう。
「いい子」なんて言葉は、誰もが普通に使う何気ないものなのだから。
「先輩...」
「............つーくん。明日体育祭だし、体壊してもダメだから、もう今日は寝ようか」
「...ありがとう、ございます」
遼介の気遣いに甘えそのまま寝室に移動する。
震えはなくなったものの未だ青い顔。元々色白な肌が余計に白くなり、一見死者のように見えてしまう。
鼓は動揺を悟られまいとしているようだがそれは無理な話だった。
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