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夢ノ内高校体育祭 開催 24

「遼介っ」 「っ、名前呼びだなんて失礼だろ!」 それでも再度強く名前を呼ぶと、遼介は餌に釣られた犬の如く吸い寄せられていった。 足は徐々に片方へ向かって行き。 呼ばれたのは、微笑みを向けられたのは、優しい声を掛けられたのは、 「つーくん、一緒に来てくれる?」 鼓だった。 コクンと大きく頷き差し出された手を掴む。 猿は固まりその光景をただただ見詰めるだけ。 「お題はね、「可愛いもの」。つーくんが降りてきてくれてて良かった。じゃないと叫ぶことになってたよ「可愛いつーくん降りてきてください!」って」 「そ、それは恥ずかしいです」 「でしょ?」 身長差20cm以上。見上げる鼓は首が少し痛くなっていた。遼介の瞳はトロリと溶け、甘さがある。 鼓も自分のところへ来てくれたことに酷く安心し、目尻を緩め微笑んでいた。 そこへ、首が痛い鼓の耳まで痛くさせるような金切り声が。 「なんで僕じゃないの?!」 「?」 横にいた猿を不思議そうに見遣る遼介。 「僕の方が可愛いし人気もあるのに!なんで?!そんなやつより、僕の方が財力もある!先輩に迷惑もかけない!なのに、なのに...、僕はっ」 「?まず聞くけど。君は誰?」 「...ぇ」 猿の絶望した表情。 借り物競争で借り物として同行し、昼食を食べ、先程まで付きっきりだったはずの猿の存在を忘れたというのか。 否。 忘れたと言うより。「最初から覚えていなかった」が正解なのだろう。 「というか、いつから居たっけ」 「あの、あ、の...」 「つーくんの方が可愛いし、綺麗だからね。全然気が付かなった、ごめんね?」 「っ、ぁ......ぅ...」 フォローしたつもりなのかわざとなのか、猿をさらにドン底まで落とすようなことを言う。 「あと。俺財力とか特に興味ないんだよね。自慢じゃないけど、俺の方が上だから」 「...」 「ああ、それから。君も結構腹黒いみたいだけど。つーくん...鼓の腹黒さの方が可愛いかな」 「......」 「じゃあつーくん。行こうか」 「は、はい、って、え、何するんですか!」 「何って、お姫様抱っこ。勝たなきゃいけないからね、走るためにはつーくんを抱っこしなきゃ」 「や、やめっ、」 「ほら行くよ。暴れたらキスするから」 「〜〜〜〜〜っ」 猿はこの間何も発さず、ただ静かにハラハラと涙を流し立ち尽くしていた。 甘い空気を醸し出す2人を呆然と目の当たりにしながら。

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