208 / 437

表彰式 1

順位が発表されると同時に、鼓は階段を駆け下り恋人の名を呼んだ。 呼ばれた本人は人集りの中心にいるというのにその声に気づき振り返る。 (こんな時だけは先輩の地獄耳なのに感謝…!) 人混みをどう避けようか迷う内に先に遼介が来てしまう。鼓は不甲斐なさを感じつつも来てくれたことが嬉しそうである。 「お、お疲れ様です」 「うん、疲れた」 疲れたと言う割に疲れを一切感じさせない笑み。というか、 (…あれ、なんか先輩の笑顔怖い?) 含み笑いのような。 ガシと肩を掴まれ鼓は固まった。 「取り敢えずつーくん。キスしたい」 「えっ」 「つーくんの為によ?ねぇ、キスくらい許して?」 「ひ、」 放送委員1『繰り返し連絡致します!今回、優勝は紅組です。氷川 遼介のリレーの活躍により紅組は優勝しました!』 放送委員2『くそぉぉおおぉ!』 結果は、遼介たち紅組の勝ちであった。 「絶対いやです」 「それは許されません〜引き摺ってでも連れていくよ」 体育館の隅の方に縮こまり一切動こうとしない鼓。それを含み笑いで更に追い詰めようとする遼介。 「鬼」 「つーくんのために勝ったんだからこれくらい許して」 因みに先程の勝利のキスは実行された。で、これは何だという話なのだが。 なんとか勝利したということで、遼介は鼓にいくつかの「お願い」をしたのだ。その1は先程のキス。その2は「生徒会に入ること」。鼓はこれを快く(???)承諾し生徒会に入部することになった。 が、その3がダメであった。 生徒会は体育祭の終わりに挨拶があるのだが、そこで鼓を新生徒会生として紹介したいのだという。ここまではいい。 その紹介するまでに鼓をお姫様抱っこして行きたいというのがその3の「お願い」なのだ。 「…優鬼」 「優鬼で結構。早くしないとお姫様抱っこに追加してベロチューにお触りまで入れるよ」 「優鬼にじゃなくてただの鬼でした」 「ほら、は〜や〜く。時間押してるんだから」 「っ、もう!さっさとやって下さい!」 とうとう鼓はバッと両腕を開きいつでも来い!と遼介に身を任せた。 遼介はその潔さ好きだよと言い、鼓を抱き抱えた。 首筋の匂いを嗅ぐことも忘れずに。 用意された朝礼台に乗ると辺りがザワザワとどよめき立つ。鼓は恥ずかしさもあり遼介の首に顔を埋めていた。 「つーくんも俺の匂い嗅いでるの?」 「違います…恥ずかしいだけです」 「いい匂いする?汗臭い?」 「話聞いてないし…いい、匂い?です」 疑問形な鼓に笑いながら遼介はマイクを持って周りを静かにさせた。

ともだちにシェアしよう!