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服を買いに 2

その戦いは八九座の笑い声によって遮られた。それに驚き、鼓は肩をびくつかせる。 「なにが面白いの?」 間に急に入ってきた人物が気に入らず、睨みつけ鼓を腕に抱く。見るな、鼓は自分のものだと言いたげだ。 「いや……あなたがここまで押されてることが面白くて。今まで付き合ってこられた方々には、こうやって金を払っても、そんなこと言われたことないでしょう?」 「それは、………ッ…」 ガリッと鎖骨あたりを噛まれ遼介は慌てて鼓を引き離した。噛まれた部位から血が滴り落ち、痛々しい。 困惑し鼓の顔をのぞき込む。 「つーくん?」 「俺以外にも、こんなことしてたんですね」 「……おい、八九座」 どうしてくれるんだと言わんばかりに低い声を出す。鼓は次はどこを噛んでやろうかと目を動かしていた。 鼓は遼介の元恋人たちの話を誰かが持ち出すのを酷く嫌う。もちろん遼介が話すなどもってのほかだった。 途端に機嫌が悪くなり、どこでもいいから噛み付こうとする。 遼介は自分のものなのだと、印を着けるように。 こういう時、鼓は手がつけられないのだ。 実に似たもの同士である。鼓は自分のものなのだ、と人に自分の持つ力を使ってわからせる隠す遼介と、遼介は自分のものなのだ、と印をつけて人に分からせる鼓と。 はぁ、と八九座は仕方なしにフォローの言葉をかける。遼介自身が今までしてきたことだと言うのに。 「大丈夫ですよ、鼓様。遼介様は付き合ってこられた方々にそんな優しい接し方をしたことはありませんから。あちらは「払われて当然」という感じで、遼介様もそれに従っていただけです。 そこに愛などありません。 遼介様に、散財癖を直せ、自分で金は払う、などと仰られたのはあなただけですよ。 昔の遼介様なら「なら、ご勝手に」と言っていたでしょうに。 鼓様は愛されていらっしゃいますね」 「…いっ、たい!つーくん痛い痛い痛い!」 今度は、耳を噛まれ悶絶する。 「うわきしたらゆるしませんから」 「……………………分かってるよ、もちろん。俺が目移りしないように、こうやって噛んだりして印付けてくれてるんだよね?」 髪を何度も何度も手櫛で解かれようやっと鼓は落ち着きを取り戻し、ごめんなさいと謝った。 自分の鞄から絆創膏(大)を取り出し貼ろうとする。 が、遼介がそれを止めた。 「印消してどうするの。見せとかなきゃ意味無いでしょ」 「…はい」 「俺には、つーくんだけだよ」 フレンチキスを1つ2つ落とし、自体は収束した。 (あれ、結局お金の件流されてない?…遼介の馬鹿)

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