232 / 437
某ネズミの国でお揃いの物を 3
イチゴ、チョコ、レモン、オレンジ、ブドウ、モモの6種のアイスは、ダブルやトリプルにも出来るらしい。
あわあわという効果音が聞こえてきそうなほど、鼓は迷っていた。
(モモも好きだけど、定番のチョコも好き……でもレモンも捨て難いっ)
「、あの、お客様?」
「すみません!すぐ選びますから!」
ショーケースを覗いてるせいで、視線は図らずも上目遣いになる。すると、店員が顔を赤らめ固まってしまった。
「〜〜っ、大丈夫ですよっ、今は混んでませんから」
「!ありがとうございますっ」
実際は少し混んでいるが、誰一人として苦言は言わないだろう。
鼓の見目麗しさや言動が可愛らしいのはもちろんのこと、その後ろに一言でもなにか言えば消すぞとドス黒いオーラを放つ遼介が居るからだ。
鼓が振り返る度にはオーラを引っ込めるなど、かなり驚異的な能力である。
そうとは知らない鼓は無邪気に遼介に問いかけた。
「どれがいいと思いますか?レモンとモモとチョコで悩んでて…」
「3つ乗せればいいんじゃない?トリプルも出来るみたいし」
「そ、その手があった…!」
何故今まで気づかなかったのか不思議だ。遼介が笑ってしまうと、鼓がジロと睨んだ。
「なんですか」
「可愛いなって」
「っ、」
思わず息を飲み頬が赤く色づく。鼓は咄嗟のことに弱いようだ。
アイスをのせてもらっている間、遼介は少し離れていた。彼自身も自分の容姿は自覚しているためあまり人混みには入りたくないのだ。
少しして、戻ってきた鼓の手にはしっかりトリプルアイスが握られていた。
「トリプルにしたんだね」
「しました、レモン3つのトリプルです」
「あ、そういう…」
レモンとチョコとモモ、ではなかったのか。
クマのエリアまでは距離があるということで、アイスを食べながら移動することとなった。
「美味しい?」
「遼介がいつの間にかお金払っちゃったことはチャラにしないけど、美味しいですよ」
「根に持つね……」
フンッと口にアイスを頬張りそっぽを向く姿に、本気では怒っていないことが分かる。
現に、言葉に棘がない。
アイスを貰い、いざお金を払おうとした時、既にお金は貰ってますよと返されたのだ。
きっ……ちり15秒、鼓はその言葉をゆっくり飲み込んでからお礼を言い、そして列を抜けて待っていた遼介の口にレモンアイスを1つ突っ込むという暴挙に出た。
『遼介がお金払ったなら遼介も食べますよね〜〜?』と。
遼介がレモンを苦手とすることを知っておきながら。
ともだちにシェアしよう!