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某ネズミの国でお揃いの物を 19

鼓は指を口から離して遼介の首元に擦り寄った。匂いを軽く嗅げば何故だか安心する香りだった。そんな彼を少し困り顔をした遼介が優しく抱きしめ頭を撫でる。 「うー…」 「可愛い…ねぇつーくん、覚えてる?」 「…何をですか?」 「お揃いのもの買うってやつ」 もちろんだ、と鼓は頷いてみせた。忘れる筈がない。 その答えに満足して、遼介は膝に乗せた鼓の髪の一房を持ち上げ、口付けをし、幽艶と微笑んだ。 その表情に、ドキリとする。 「それを見る度に思い出したらいいよ、今日の思い出。寂しくて、俺が傍にいない時に、それを見て少しでもつーくんの寂しさが消えると嬉しい」 (………) 「……あれ、つーくん?」 「ッッッ、いき、とまっ、てた、しぬかと、おもった」 (こ、ここ、これが俗に言う「キュン死」…?!) 「え、つーくん高所恐怖症だったの、」 「ちが、いま……ふ」 「いや呼吸止まりかけだよ?!信憑性ないからね?!ごめんね乗せちゃって!ヘリコプター呼ぶ?!」 ヘリコプター呼ぶ?と簡単に聞ける所に鼓は突っ込みたい気持ちがあるもののキュン死の影響で喋れないでいた。 ゴウンと音を立てて再び観覧車が動き出す。 鼓の心の中に、観覧車を半周する前に宿っていた寂しさはもう残っていなかった。 お土産エリアにて、先程の甘い雰囲気とは一変、2人は睨み合っていた。 理由は非常に単純なものである。 遼介は、鼓と完全お揃いのもの、つまり色形全て同じ物がいいと言う。 逆に鼓は、一見お揃いには見えないが形を合わせたりするとお揃いの物のタイプがいいと言う。 非常に、バカバカしい言い合いだ。 「バレたらどうするんですか!」 「指輪してる時点で察されてるよ」 「……そ、」 「なんなら今ここで大声で叫ぶけど。この子は俺の恋人です!って。+‪αでキス付き、しかもディープな方」 「……」 わざとらしくそっぽを向くもその表情は本気では拗ねている訳では無いのが見て取れる。 「遼介の言う中なら、これがいいです」 口角が、上がってしまっているからだ。 鼓には、引くくらい愛情過多で強情なくらいが丁度いいのかもしれない。

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