254 / 437
幸せの絶頂期 5
「遼介、手、怪我してる……」
言われて見てみれば、遼介の手は破片により切れ、出血していた。そこまで深くはなさそうだが、痛々しいことに変わりはない。
「あ」
「お、俺のせいでっ、ごめんなさい、手当しなきゃ、早く!」
ボロボロと大粒の涙を零し肩を震わせる姿に遼介は驚く。
今まで自分のことでは涙を流さなかった鼓が、遼介の事で涙を流しているからだ。
血を止めようとしているのか、鼓は遼介の手の甲を押さえつけている。
だが、それは逆効果だったり。傷口はパッカリ開いてしまっているため、塞ぎようがないのだ。
「つーくん、それちょっと痛い。あと落ち着こう?」
「ぁ、ああっ、ごめんなさいっ、どうしようっ、ごめんなさい」
「うん、とりあえず落ち着こう」
深呼吸して、と言われるも取り乱し過ぎて腹式呼吸を行ってしまう。あの鼓が、こんなにも、慌てふためいていた。
「ほら、大丈夫だよ。俺全然痛がってないでしょ?」
怪我をしていない方の手で頭を撫でる。手からは血が滴り落ち見るも無残だ。
「うう……ごめんなさぃ…ひぐ……っ」
「大丈夫だから、泣き止んで?ね?」
「……泣く?」
言われて始めて鼓は頬に触れた。濡れた感触に直ぐに腕を引っ込める。鼓は目を見開いて遼介を仰ぎ見た。
「泣いてる?」
「……泣いてるよ。部屋に戻ろうつーくん」
「は、そうですね早く遼介の手を手当しないと!」
部屋の前には既に八九座が待機していた。遼介が近づくと深く頭を下げた。
「すみません、取り逃しました」
「………………分かった。監視カメラは隆盛のハッキングに頼るから、周りの警備強化して」
綺麗に45度お辞儀をすると八九座は足早に帰っていく。鼓はその光景を見送ったあと、急いで部屋に入り救急箱を戸棚から取り出した。
座るよう促し、少しだけだが未だに出続ける涙を放置し包帯とピンセットを持つ。
「これって病院行った方がいいんじゃ……」
はたと気づき固まる。
「あ〜、大丈夫じゃない?縫う程じゃないだろうし」
「縫う……っ」
ともだちにシェアしよう!