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離れた方が安全なこともある 2

「つーくんの泣く姿初めて見た」 「鼓くん泣いたの?!遼介とうとう泣かせたんだ!」 もう起き上がる気などないのか詩帆は椅子の下から茶化す。 「とうとうってなんだ。……泣かせるつもり、なかったんだけど、俺が怪我してるって気づいた途端急にボロボロって」 「……」 詩帆と隆盛は同時に首を傾げ、想像出来ない、といった顔をした。今まで、妖艶と笑っている姿や無表情な姿、苛立っている姿しか見たことしかないからである。 最近は恥ずかしがるこそすれ、泣くなどありえないように感じられた。 一方の鼓。 鼓は全く食事に手をつけず、屍のように机に顔を伏せていた。ピクリとも動かない。 あの鼓が、だ。 古木が近寄ろうと動こうとはしなかった。 いつもは別々に食べる古木だが、今日に限っては様子のおかしい鼓のために友達との約束を断ったのである。 が、早々に古木は後悔した。 「(重い…超空気重い。涼川から出る負のオーラが凄まじい、押しつぶされるぞこれ)」 圧迫感がドスンと肩に乗るような感覚に既に後退りしたい気持ちでいっぱいだった。 「涼川〜、ここ座って大丈夫か?」 一応声をかけると、地から這い出たような呻き声、(もとい)、返事が返ってきた。 「、なにかあった?」 椅子を持ってきて弁当を置くと、ゆったりと顔を上げた。いつもは綺麗な黒髪が今だけ酷く鬱蒼としているように見える。 顔を上げた鼓の目は、腫れぼったく、目は充血していた。ついさっきまで泣いていたことが分かる。 古木は驚き困惑した。 「どうしたんだよその顔!」 「……ないた」 「それはわかってるけど!」 「めがいたい、はれぼったい」 「ってか語彙力の低下しすぎだろ?!まじでどうしたんだ?!」 問うと、鼓の目に薄い膜が張り零れ落ちそうになる。古木が慌ててティッシュを差し出すと目に押し当て、鼻水を啜った。

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