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茶番劇

(しばら)くして…連れてこられた遼介は鼓の涙の痕を見て酷くショックを受けたようだった。 「つーくん、また泣いて…」 「………」 「おいで」 遼介が腕を広げ鼓を誘う。暖かな腕に飛び込みたい気持ちが胸を突いたが、鼓は動こうとはせず、力強く目を瞑るだけ。 必死に堪えていることが目に見えてわかる。 「だ、め……だから」 「つーくん」 「だめ、」 「つーくん」 何度呼びかけようとも、鼓は決して動くことも目を開くこともなかった。動けば、目を開けてしまえば涙が零れるからだ。 遼介が困った顔をした、その時。 「「そぉいっ!!!」」 謎の掛け声と共に鼓の体が前に押し出されてしまった。小さく可愛らしい悲鳴をあげ、遼介の腕の中に飛び込む。無論抱き止められた。 目を白黒させながら振り返ると、詩帆と古木が親指を立てて立っていた。二人して満足気な顔をしている。 「余も悪よのぉ、古木はんや」 「ははは、お代官様には及びませんよ」 そして何やら茶番を始めた。 (あいつらマジで許さない…っ。おれが一生懸命遼介から離れようとしてたのに!!!!) 「つーくん」 茶番に怒っていたため今どういう状況なのか忘れそうになっていた。ここは、遼介の、腕の中なのだ。 「あ、ああっ、離してくださいませ?!」 「語尾おかしくなってるよ」 「元々こんな口調ですわよ?!」 「つーくんテンパるとオネェさんになるんだね。学習した」 「変なこと覚えるのやめましょう!」 抵抗しても意味ないと分かっているので、言葉でどうにかして離して貰おうとしている。 それも無意味なのだが。

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